かつて、「落ち武者」と言われた先輩がいた

ポジティブな戦国武将・I先輩

戦国時代、武将たちは兜をかぶるときちょんまげの元結をほどき、ザンパラ髪にしたのだそうです。
髪を後ろに垂らしておくと、刀から首筋を守るためだったとか。
たしかに、髪の毛は強いですからそれは言えてるかも。

で、応仁の乱後は前頭部を剃り上げる「月代」が出現しました。
兜の中で蒸れるのを防ぐ役割があったからです。
よく、敗残の武将が兜をなくし、ザンバラ髪で落ちのびていく姿を歴史物のドラマや映画で見かけます。
「ステキな金縛り」の西田敏行さんが記憶に新しいですね。

落ち武者――僕が以前所属していた会社に、こういうあだ名の先輩がいました。
Iさんといいます。
前頭部から後頭部まで髪がハゲていて(あれ、今の僕もそうかな)、
耳のラインから下だけ長髪にしている。
顔つきがとても縄文人チック(彫りが深く眉が濃く、鼻梁が横に広がっている)だったため、
相当な迫力をたたえていました。
目を閉じて考え事をしている(あるいは、居眠りをしている)お顔は、
ベートーベンのデスマスクのよう。
夜道で会ったら、子供が泣き出す。
そんな危険性すら感じさせる方でした。

僕が入社した頃はすでに定年近い年齢でしたが、伸ばしている髪の毛は黒々としていました。
精力があるのかなぁなどと、漠然と思っていたのです。

その先輩があるとき、スキンヘッドにしてきました。
当時の僕は額が広くなりかけていたものの、まだ頭を丸めるなどとは思いもつかなかったので、
「やっちゃったなぁ~」と遠巻きに見ていたのみでした。
思えば、僕が頭を丸めたときの周囲の典型的な反応ですね。

落ち武者がお寺に逃げ込み、剃髪して出家した、というストーリーを彷彿とさせるI先輩でしたが、
剃髪時代はそう長くは続きませんでした。
剃るのは一度きりだったらしく、徐々に髪が伸びてきます。
しかし、伸びてきた髪は白髪。
なるほど、黒々としてたのは精力があるためではなく、染めてたんだ。

気付かない方がアホですが。

I先輩はスキンヘッドにすることで、髪を染めていた自分に決別したのでした。
頭を丸めていた期間がクッションみたいな役割を果たし、
本来の白髪である自分に移行することを試みた。
それはうまく成功したと思います。

頭を丸めている期間はわずかでしたが、それをうまく使ってあるがままの姿になった。
今思うと実にポジティブです。

定年で勇退され、もうかなりの年月が過ぎました。
今は悠々自適で暮らしてらっしゃるのでしょうか。

たまに一緒にお酒を飲んだことを思い出します。
酔っぱらうと誰彼かまわずキスを迫るI先輩。
白髪の落ち武者が眼をひん剥いて迫ってくる姿が夢で蘇り、
夜中に飛び起きることもあります。

ポジティブだけどいい迷惑だ。

落ち武者ヅラ。矢が刺さってるジョークカツラ

アマゾンあたりで探すと、こんなヅラが見つかります。
脱いだら同じ髪型だった、なんてジョークができるかも。

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ポジティブ・ヘッドまでの長い道~その5

最後の髪道楽

リアップやロゲインに頼り始めて1年過ぎました。
いつしか2000年代に突入。

合わせ鏡に映る僕の頭頂部には、変化がありませんでした。
効く人には効くはずです。
実際、「生えてきた」という声はよく耳にしましたから。
しかし、僕には効果がなかったように思えました。

うーんどうするか。
安くはないものを継続して使い続けていても、お金が消えていくだけ。
髪の毛も消えていくだけ。

このまま無くなっていくのなら、最後に一花咲かせようじゃないか。

自分がやりたかった髪型を楽しむことにしました。

リーゼント。
キャロルがデビューしたとき、音楽とともに衝撃を受けたポマードギタギタの髪型。
(あ、キャロルって、このブログを呼んでいただきたい年代の方ならご存じですよね)
しかし、クライアントの偉い人にも会うことのある会社員ですから、あまり不良っぽい髪型は……ということで諦め。

茶髪か金髪。
これもやりたかったんですが、やはり立場上まずいかなと。
コンサバなクライアントさんも多かったので。

長髪。
60~70年代、「長髪は不良だ」という図式がありました。
反体制の図式ってやつがまだ健在だった頃で、
全学連やグループサウンズやヒッピーやフーテンなどといったお兄さんたちが
長髪を振り乱して何か叫んでいたのを憶えています。
いっときは廃れたものの、90年代頃からまたオシャレの一環として復権してきていました。
僕の業種(広告制作業)にも長髪の人、ポニーテールの人がぼちぼち見られるように。
クリエイターは、長髪。
そんな空気を読みました。

よし、伸ばす。

オヤヂギョーカイ人いっちょあがり

そういえば、髪がたくさんあった若い頃は長髪にしようと思わなかったんです。
学生時代は運動部だったし、社会に出た80年代はプレッピーなんかが流行っていて、みんな短髪だった。
サーファーは長髪だったけれど、そこまで思い切れなかったし。

最後の髪道楽は、長髪にしよう。
妻にそう宣言すると、何も言わずに溜息をついた、ような気がします。

長髪って楽ですね、伸びるまでは。
ただ、中途半端な長さだと首筋がくすぐったかったり、目に髪先が入ったりします。
まあ、じっとガマン。
不潔にならぬよう、シャンプーはしっかりしていました。

リアップやロゲインは、いつしか使わなくなってしまいました。
延命治療より、ターミナル・ケア。
不謹慎だけれど、そんなことも思っていました。

髪が伸びてくるにつれ、以前の硬くて太かった髪ではなく、細くてシナシナとしたものになっていることがわかります。
これはいかん。
ここまで来ているのか。

そして、後ろで結わえるくらいまでの長さになり、妻からゴム紐を借りて留めてみました。

リトル・ポニーテール。
前髪はまだサイドに垂れるくらいの長さ。
今で言うと、チャン・グンソクくんみたいな感じ。
笑っちゃいますけどね。

そして時は来た。
ちゃんと前髪も後ろで束ねられるように伸び、「尻尾」も完成。

頭頂部から後頭部の薄くなっている部分は完全には覆い隠せませんが、
「頭は薄いけどポニーテールで決めているオヤヂギョーカイ人」となった僕は、
妻に「どうだ」とばかりに見せてみました。

彼女はつぶやきました。
「あ、志村けん」

(つづく)

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